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単一の制御因子を用いて植物ステロイド成分蓄積の短期間での誘導に成功-「植物バイオものづくり」の新手法として期待-

研究のポイント

?多数の合成酵素遺伝子※1の働きを統括する司令塔役の制御因子PhERF1を園芸植物ペチュニアの葉において機能増強することで、植物ステロイド成分※2の蓄積を短期間で誘導することに成功しました。
?PhERF1とその類縁因子は、多種多様な植物成分の合成に共通する「万能」制御因子※3であると考えられます。
?「万能」制御因子を用いる手法を、さまざまな植物種に適用することで、「植物バイオものづくり※4」が推進されることが期待されます。

概要

 富山大学?和漢医薬学総合研究所の庄司翼教授らの研究グループは、理化学研究所と筑波大学との共同研究で、単一の制御因子(転写因子)を用いて植物ステロイド成分の蓄積を短期間で顕著に誘導することに成功しました。
 複雑な化学構造をもつステロイドなどの生理活性※5を有する天然化合物は、医薬などとして広く利用されていますが、植物体内にはこれら有効成分が微量にのみ含有されています。微量植物成分の蓄積を顕著に増やすことができれば、医薬やその原料などの安定生産?供給が可能となります。
 植物において天然化合物は、単純な構造の前駆体化合物※6から複数段階の酵素反応を経て合成されます。本研究では、多数の合成酵素遺伝子の働きを統括する司令塔役の制御因子PhERF1の機能を増強(過剰発現)し、100種類以上の合成酵素遺伝子の働きを覚醒(発現誘導)させることで、園芸植物ペチュニアの葉にペチュニア属植物特有のステロイド成分の蓄積を短期間(8日間)で飛躍的に増大させることに成功しました。
 本研究で用いたペチュニアPhERF1の類縁因子は、ほとんど全ての双子葉植物に存在し、それぞれの植物種で特有な植物成分の合成を統括している「万能」制御因子であると考えられます。単一の万能制御因子を用いる本手法を、さまざまな植物種に適用することで、「植物バイオものづくり」が推進されることが期待されます。
 本研究成果は令和5年10月31日(火)21:00(日本時間)に米国科学アカデミー紀要誌PNAS Nexus電子版に掲載されました。

用語解説

※1)合成酵素遺伝子
合成酵素をコードする遺伝子。前駆体化合物から最終産物にいたる成分合成経路は多くの反応ステップにより構成される。合成酵素はおのおのの反応ステップを触媒する。

※2)植物ステロイド成分
植物が合成するステロイド骨格をもつテルペノイド化合物。ステロイド基本骨格が様々な修飾を受け、多様な構造に変換される。生理活性をもつものが多い。 本研究において、ペチュニア属植物に特有の毒性ステロイド成分であるペチュニオリド(Petuniolide)やペチュニアステロン(Petuniasterone)の蓄積誘導に成功した。

※3)「万能」制御因子
AP2/ERFファミリーに属する特定サブグループ(グループIXa, クレード1)の転写因子(DNA結合性タンパク質)。転写活性化因子として上流制御領域に直接結合することで合成酵素遺伝子の働きを覚醒させる。広範な双子葉植物種に存在し、それぞれの植物系統に特有の成分の合成を制御すると考えられる。ニチニチソウ(キョウチクトウ科)、タバコ(ナス科)、トマト(ナス科)、ペチュニア(ナス科)、クソニンジン (キク科)で成分合成を制御する。さらに多くの植物種において類縁因子が成分合成制御に機能するのかを検討する必要がある。

※4)植物バイオものづくり
医薬、色素、香料、工業原料などの高付加価値な植物由来天然化合物(低分子有機化合物)を、植物細胞を用いた生物的プロセスで効率的に物質生産する技術。 従来の有機合成などの化学的プロセスではなく、環境への負荷も少ない植物や微生物を用いた生物的プロセスによる有用物質生産技術を開発する必要がある。

※5)生理活性
化合物が生物の特定の生理的調節機能に対して作用する性質のこと。

※6)前駆体化合物
成分合成経路の出発物質。全ての生物にみられる糖類、アミノ酸、脂質など、比較的簡単な化学構造をもつ化合物である。

研究内容の詳細

単一の制御因子を用いて 植物ステロイド成分蓄積の短期間での誘導に成功-「植物バイオものづくり」の新手法として期待-[PDF, 679KB]

論文情報

論文名

Induced production of specialized steroids by transcriptional reprograming in Petunia hybrida

著者

庄司翼1,2(責任著者)、菅原聡子2、森哲哉2、小林誠2、草野都2,3,4、斉藤和季2.
1 富山大学?和漢医薬学総合研究所
2 理化学研究所?環境資源科学研究センター
3 筑波大学?生命環境系
4 筑波大学?つくば機能植物イノベーション研究センター

掲載誌

米国科学アカデミー紀要誌PNAS Nexus

DOI

https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgad326

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富山大学?和漢医薬学総合研究所
教授 庄司翼

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