妊娠期の環境要因が子どもの脳発達に与える影響-母体へのグルホシネート曝露によるシナプス形成異常の発見-
ポイント
- 妊娠期の雌マウスに農薬グルホシネート※1を投与することで、その胎児の培養神経細胞でシナプス※2形成量が減少することを発見しました。
- 培養中の神経細胞にグルホシネートを直接作用させた場合、シナプス形成量は変化しないことを発見しました。
- 培養神経細胞の遺伝子発現解析と仔マウスの脳内での抑制性ニューロン※3の1種であるパルブアルブミン陽性細胞の経時的な細胞数の解析を通して、妊娠母体へのグルホシネート曝露がその仔マウスの神経細胞の発達をわずかに遅延させることを見出しました。
概要
富山大学医薬系技術部 基礎医学部門 細胞機能分野 分子神経科学講座の和泉宏謙と学術研究部医学系 分子神経科学講座 吉田知之准教授らの研究グループは、マウスを用いた動物実験を通して、妊娠母体へ農薬(グルホシネート)を投与することで、その仔マウスの神経細胞でシナプスの形成量が減少することを発見しました。近年、妊娠期の母親が晒される環境要因(感染症、栄養環境、環境化学物質への曝露など)が子どもの神経発達障害※4のリスクを高めることが示唆されていましたが、そのメカニズムについてはよくわかっていませんでした。今回の知見は、妊娠期における環境要因への曝露が神経発達障害を導く病態発症メカニズムの1つとしてシナプスの形成異常が存在することを提案するもので、神経発達障害の新たな創薬?治療戦略の基盤構築に寄与するものと期待されます。
本研究成果は、「Frontiers in Molecular Neuroscience(掲載誌)」に2023年11月30日(木)(GMT グリニッジ標準時間)に掲載されました。
用語解説
(※1)グルホシネート
グルタミン合成酵素を阻害することで除草効果を発揮すると考えられている農薬。
(※2)シナプス
神経細胞の軸索終末と樹状突起の間で形成される接着構造で、神経細胞間の信号伝達を担う。神経伝達物質を放出するシナプス前終末と受容するシナプス後終末より構成されている。
(※3)抑制性ニューロン
脳内での神経ネットワークが興奮しすぎないように制御する神経細胞のこと。抑制性ニューロンには幾つかの種類が存在し、パルブアルブミンを発現する細胞はその1種で、ニューロンの発達の指標とされている。パルブアルブミンのほかに、ソマトスタチンや血管作動性腸管ペプチドを発現する細胞などが存在する。
(※4)神経発達障害
脳の働きに偏りがあることで、物事の捉え方や行動パターンなどに違いが生じ、日常生活に困難が生じている状態のこと。
研究内容の詳細
妊娠期の環境要因が子どもの脳発達に与える影響-母体へのグルホシネート曝露によるシナプス形成異常の発見-[PDF, 559KB]
論文情報
論文名
Developmental synapse pathology triggered by maternal exposure to the herbicide glufosinate ammonium
著者
Hironori Izumi, Maina Demura, Ayako Imai, Ryohei Ogawa, Mamoru Fukuchi, Taisaku Okubo, Toshihide Tabata, Hisashi Mori, Tomoyuki Yoshida*
掲載誌
Frontiers in Molecular Neuroscience
DOI
https://doi.org/10.3389/fnmol.2023.1298238
お問い合わせ
富山大学学術研究部医学系 分子神経科学講座
准教授 吉田 知之
- TEL: 076-434-7231
- E-mail:
富山大学医薬系技術部 基礎医学部門 細胞機能分野 分子神経科学講座
技術専門職員 和泉 宏謙
- TEL: 076-434-7231
- E-mail: