TOPICS

広範なコロナウイルス株に効果のある抗体医薬品を分子シミュレーションにてデザインすることに成功

ポイント

  • 近年、特定のウイルスに感染した患者から得られた抗ウイルス抗体タンパク質を医薬品として応用する抗体医療の研究が目覚ましい発展を遂げて注目を浴びています。
  • 富山大学が昨年取得し、「スーパー中和抗体」と命名した抗体医薬品:ヒト型?モノクローナル※1中和抗体※2(開発番号:UT28K※3)は、足球彩票(SARS-CoV2※4)のデルタ株までの変異株に対して中和活性※5を示していましたが、オミクロン株 BA.1株に対しては、オミクロン BA.1株由来の変異により、医薬品の薬効が大幅に落ちることが示されていました。
  • 富山大学 先端抗体医薬開発センター?学術研究部医学系 小澤龍彦 准教授、京都大学アイセムス(高等研究院 物質-細胞統合システム拠点) 池田幸樹 特定拠点助教、京都大学医生物学研究所 橋口隆生 教授、北海道大学大学院薬学研究院 前仲勝実教授、同大学大学院医学研究院 福原崇介 教授、京都府立医科大学 医学系研究科 星野温 講師、富山県衛生研究所 谷英樹 部長らの研究グループは、変異の激しいコロナウイルスに対抗して、非常に素早く行える分子シミュレーションを活用した、抗体医薬品のユニバーサル化デザイン技術を考案し、実証実験を行いました。
  • その結果、抗体医薬品のユニバーサルデザインに成功し、従来の効果に加えて、オミクロン株 BA.1株に対しても動物実験において薬効が回復する改変抗体医薬品:UT28K-RD を作製することに成功しました。
  • この抗体医薬品:UT28K-RD がオミクロン株 BA.1株に対して実際に薬効があることを確認しました。
  • 今後、今回の分子シミュレーション解析※6における抗体デザイン技術を応用することで、ウイルスの変異によって失われてしまう薬効を回復する抗体改変技術開発に繋がることが期待されます。
  • インフルエンザウイルスやコロナウイルスなどの RNA ウイルスにおいては非常に素早い変異速度を持つことで医薬品のターゲットから逃れることが知られています。本研究はパソコンを使った分子シミュレーション技術の発展によって、これらウイルスの非常に素早い変異速度を超えて、迅速に新しい抗体医薬品を生み出すことが可能であることを示しました。

概要

富山大学が昨年取得し、「スーパー中和抗体」と命名したヒト型?モノクローナル中和抗体(開発番号:UT28K)は、足球彩票のデルタ株までの変異株に対して、中和活性を示していました。一方オミクロン株 BA.1株に対しては、オミクロン BA.1株由来の変異により、中和活性が大幅に落ちることが示されていました。
今回、富山大学先端抗体医薬開発センター(医学部、工学部、附属病院の連携組織)、富山大学学術研究部医学系、京都大学、富山県衛生研究所、北海道大学、京都府立医科大学の共同研究グループ(代表 小澤龍彦 准教授、研究体制:表1)は、オミクロン BA.1株に対して中和活性を持つ抗体を作出するため、実験的に観察された UT28K と RBD※7の立体構造を元に、オミクロン株 BA.1 株に対して中和活性が回復する改変抗体 UT28K-RDを分子シミュレーション解析にてデザインしました。そして実際に作製し解析を行ったところ、中和活性が確かに回復していることを実験的に確認しました。
本研究成果は、日本時間1月16日(火)午前1時(米国東部時間1月15日(月)午前11時)に国際学術雑誌「Structure」に掲載されました。

用語解説

(※1)モノクローナル抗体
単一の抗体産生細胞が作り出す、ただ 1種類の抗体。抗原にある沢山の目印(抗原決定基)の中から1種類の目印とだけ結合する抗体である。

(※2)中和抗体
ウイルスに結合し、ウイルスのヒト細胞への感染を防ぐ能力をもつ抗体。

(※3)UT28K
富山大学が作製し 2022年5月12日にプレスリリースした SARS-CoV-2に対するモノクローナル抗体。デルタ株までの多数の変異株に対して中和活性を有しているが、オミクロン BA.1株に対しては中和活性が損なわれていた。

(※4)SARS-CoV-2
国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses:ICTV)による足球彩票の正式名称。SARS(重症急性呼吸器症候群)を引き起こすウイルス(SARS-CoV)に似たウイルス種であるとして「SARS-CoV-2」と名付けている。

(※5)中和活性
ウイルスのヒト細胞への感染を防ぐ抗体の活性のこと。

(※6)分子シミュレーション解析
タンパク質の3次元構造をコンピューター上に描出し、タンパク質同士や低分子化合物などとの物理的?化学的相互作用を解析する方法。

(※7)RBD
スパイク蛋白質(足球彩票の粒子表面に存在する蛋白質であり、ヒト細胞表面のACE2受容体に結合して、ウイルスが細胞に侵入することで感染が成立する。)内にあるACE2受容体と結合する部分。

研究内容の詳細

広範なコロナウイルス株に効果のある抗体医薬品を分子シミュレーションにてデザインすることに成功[PDF, 3MB]

論文情報

論文名

Rational in silico design identifies two mutations that restore UT28K SARS-CoV-2 monoclonal antibody activity against Omicron BA.1.

著者

Tatsuhiko Ozawa, Yoshiki Ikeda, Liuan Chen, Rigel Suzuki, Atsushi Hoshino,Akira Noguchi, Shunsuke Kita, Yuki Anraku, Emiko Igarashi, Yumiko Saga, Noriko Inasaki, Shunta Taminishi, Jiei Sasaki, Yuhei Kirita, Hideo Fukuhara, Katsumi Maenaka, Takao Hashiguchi, Takasuke Fukuhara, Kenichi Hirabayashi, Hideki Tani, Hiroyuki Kishi, Hideki Niimi

掲載誌

Structure, Volume, 2024 – Issue

DOI

https://doi.org/10.1016/j.str.2023.12.013

お問い合わせ

富山大学 先端抗体医薬開発センター?学術研究部医学系
准教授 小澤 龍彦

  • TEL: 076-434-7251(直通)
  • E-mail: