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光の不完全な乱雑化の問題解決による量子鍵配送の安全性向上

概要

スペインのヴィーゴ大学 マルコス?カーティー教授の研究グループ、カナダのウォタルー大学 ノバート?ルトケンハウス教授の研究グループは、富山大学学術研究部工学系の玉木潔教授との共同研究により、実際の量子鍵配送※1装置の安全性を向上させる方法を提案しました。
量子鍵配送は量子力学の原理を利用することにより如何なる盗聴からもユーザー間の通信を保護する究極の暗号として期待されている次世代暗号方式です。この如何なる盗聴からの保護という究極の安全性を達成するためには、量子鍵配送の安全性理論※2が課す条件を実際の量子鍵配送装置が満たす必要があります。しかし、これらの条件全てを実際の量子鍵配送装置が満たすのが非常に難しいということが問題でした。特に高速通信においては、光変調器※3が光パルス※4に施した位相変調※5がその後に続く光パルスへの位相変調にも影響を与えてしまう位相相関と呼ばれる効果が大きな問題となっていました。
今回我々の研究では、BB84などの代表的な量子鍵配送方式において使用される囮法※6において位相相関などの不完全性が存在する下でも、量子鍵配送を安全に行う新手法を提案しその方法の安全性を厳密に証明しました。本研究の成果により、実際の量子鍵配送の安全性がさらに向上することになります。
本研究成果は科学誌 Quantum Science and Technology に 2023年12月22日に掲載されました。

用語解説

(※1)量子鍵配送
量子暗号とも呼ばれる。量子力学の原理を利用することにより如何なる盗聴からもユーザー間の通信を保護する究極の暗号として期待されている次世代暗号方式。

(※2)量子鍵配送の安全性理論
量子鍵配送が安全であるか否かを検証するための理論のこと。

(※3)光変調器
量子鍵配送はじめ、光通信では送信したい情報に応じて光の状態を変化させる必要があるが、これを行うのが光変調器と呼ばれる素子。

(※4)光パルス
狭い範囲に存在する光のこと。

(※5)位相変調
光の状態を特徴づける量の一つ位相と呼ばれるパラメータがあり、このパラメータを変えることを位相変調と呼ぶ。

(※6)囮法
量子鍵配送がもつ欠点の一つとして、通信距離が短いことが挙げられる。この問題を解決する方法が囮法で、量子鍵配送システムで広く使われている。

研究内容の詳細

光の不完全な乱雑化の問題解決による量子鍵配送の安全性向上[PDF, 242KB]

論文情報

論文名

Security of quantum key distribution with imperfect phase randomization

著者

Guillermo Currás-Lorenzo, Shlok Nahar, Norbert Lütkenhaus, 玉木 潔, Marcos Curty

掲載誌

Quantum Science and Technology

DOI

https://doi.org/10.1088/2058-9565/ad141c

お問い合わせ

富山大学学術研究部工学系
教授 玉木 潔

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